個人であれ、組織であれ、政府であれ、ルールはできるだけシンプルな方がうまくいく。物事が複雑に絡み合ったこの社会を生きるうえで、何を、どう思考し、どう行動するか。
「シンプルなルール」は、あなたの強力な武器になる。
とても単純なアイデアなのに、それが存在することで複雑な物事が、たちまち簡単にコントロールしやすくなる。
1 全ては「スピード」「実行力」「柔軟性」
「単純明快」というパワー
〜 シンプルなルールの4大特徴 〜
- ルールの数が少ない
基本中の基本 - 使う人に合わせてカスタマイズできる
- 具体的である
”適応範囲が広すぎる”ルールは、往々にして「非現実的なもの」として軽く扱われてしまう。 - 柔軟性がある
「シンプルなルール」は目的を1つに絞るものの、ルールの範囲内なら状況に応じて自由にアレンジできる。
「細部にわたってとり決められたルール」が役に立つ場合
飛行機墜落事故や医療事故といった悲劇が起きないようにするには、きめ細やかなルールづくりが必要。
ばらつきを排除し、低価格の商品やサービスを提供する場合は、ルールが細かく決まっていた方がよい。例えば、マクドナルドのようなファーストフードチェーン。
予測可能で、効率的で、できるだけミスを出さないことが求められる会社では、詳細なマニュアルが効力を発揮する。
なぜ「シンプルなルール」は優れた判断につながるのか
細かい分析を重ねるよりも、「シンプルなルール」にした方が、心理的負荷をかけずに、より優れた意思決定を生み出せることが多い。
必ずしも過去のことが未来にも繰り返されるとは限らない。過去のデータには有益な情報も含まれているが、一方で「ノイズ」も多い。
株式市場の予測においても、投資家たちの意思決定の正確さは、時間とともに、向上するということはない。
心理学者の研究によると、人はあれこれ考えすぎると、根幹よりも枝葉末節が気になってしまう。
より良い決断をしたいなら、細かい要素にはこだわらずに、最も重要な物事に焦点を絞らなければならない。「シンプルなルール」ならそれができ、実行に移しやすく、無理なく続けられる。
2 まず「いちばん大切なこと」を見分ける
最初の判断が命運を左右する
境界線ルール 〜 イエスかノーか 〜
「境界線ルール」は二者択一の形をとる、最も基本的な意思決定ルールである。
「考慮する」か「排除するか」ということ。
泥棒の境界線ルール
どんな家に入ろうとするか?→ 留守宅:「外に車が停まっている家は避ける」
オバマ元大統領のミサイル発射する際の3つのルール
- その人物は米国民に差し迫った脅威をもたらす相手か。
- ミサイル発射以外に方法はないか。
- 近くに民間人はいないか。
優先順位ルール 〜 少ない資源を最大化する 〜
時間や労力や資金が限られているとき、もしくは関係者の意見が合わない時に有効。
ある大企業の社員採用の際の優先順位ルール
「現役の従業員から紹介された人物」を優先的に雇う。
ブラジルの鉄道会社ALL
〜 経営改善の優先事項 〜
- 最も売上拡大の妨げになっているものはどれか。
- 最もすぐに利益が出るものはどれか。
- 最も投資額が少なくてすむのはどれか。
- 最も再利用が可能なものはどれか。
停止ルール 〜引き時を決めておく〜
やめ時を見極め、タイミングを決める時に使う
固定閾値戦略
一定条件を設定し、それを満たした時終了する。
可変閾値戦略
望みの条件が一定期間で見つからない時、ハードルを下げる戦略。
満足化基準
ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンが提唱
ベストではないが、そこそこ満足できるものが見つかった時点で意思決定を行う。
ウォール街の生き字引と呼ばれたジェラルド・ローブの独自停止ルール
損失が10%になる前に損切りする。
3 ルールを最少(ミニマム)まで絞り込む
〜 物事をうまく進めるためのルール設定 〜
頭のいい人ほど”逆手”から考える
ハウツー・ルール 〜 「制約のない自由」などない 〜
キーワードは”どのように”あるいは”どうしたら”
極度のプレッシャーにさらされている時、時間的制約が厳しい時に役立つ。
作家エルモア・レナードの「ハウツー・ルール」
- プロローグは省略する。
- 会話のつなぎに「〇〇と言った」以外の動詞は決して使わない。
- 読者が読み飛ばしそうな部分は削る。
成功し続ける企業
最も成功している企業は「仕組みを作らないで自由にさせる」ことと「仕組みをたくさん作る」ことの間で、絶妙なバランスを保っている。「仕組みを作らないで自由にさせる」と、複雑なビジネス社会で、組織はいともたやすくバラバラになってしまい、時間とエネルギーと財源をただ浪費するだけになりがちだ。
一方で、あまりにたくさんのルールで会社を縛ると、今度は動きが鈍く、活気に欠けてしまう。
Googleのルール
「最高レベルの人材を獲得する」「個性的な人材も進んで受け入れる」「大学のキャンパスのような空間を作る」
コーディネーション・ルール 〜 チームの力を引き出す 〜
キーワードは”強調” 集団行動をとる時のルール
鳥の群れの整然さからシュミレーションしたプログラム
- 隣の鳥に近づきすぎない。
- 隣の鳥から離れすぎない。
- 隣の鳥と動きを合わせる。
即興劇での独自ルール
- 前の人が言った思いつきを否定せず、そこからストーリーを膨らませる。
- ジョークを言わない。
ナポレオンの最前線で戦う兵士への命令
「砲撃の音が聞こえる方へ進め」
タイミング・ルール 〜 足並みを乱すのも作戦のうち 〜
キーワードは”いつ”
不眠症の解消のためのルール
- 毎朝同じ時間に起きる。
- 眠くなるまでベッドに入らない。
- 眠れない時は無理に寝ない。
- ベッドで過ごす時間を減らす。
わざとタイミングを外す
業界で最も業績を上げている企業は、あえてライバル社と足並みをそろえない。
ロスチャイルドの投資ルール「通りが血に染まっている時こそ、買いの絶好のチャンス」。
4 アクション前に押さえておくべき「4つの基本」 〜 実践編 〜
ノーベル賞を受賞した経済学者フリードリッヒ・ハイエクは「社会のルールは進化する」と主張。ルールは試行錯誤を繰り返しながら、長い時間をかけて発展する。
ルール作りのための四つの方法
1 「自分の経験」をとことん活用する
自分の経験や価値観を活かすことは、ルールづくりの最も一般的な方法である。個性が色濃く現れたルールは、他人から押し付けられたルールとは違い、目標の達成度もおのずと高くなる。
2 「他者の経験」をうまく拝借する
すでにサービスを確立している類似の企業がある場合、そこには優れた”仕組み”が存在する。創業時には類似企業のルールを参考にするのは有益であるが、それが目標になってはいけない。
他者の経験を拝借するとあるが、ここでいう他者とは人間に限らない。実際、自然界からアイデアを得るのはよくあることだ。
3 「科学的証拠」で巧みに補強する
最も確かで本質的なデータに集中することで、科学者たちは納得してそのルールを支持できるし、条件をつけたり、実施において細々と口をはさんだりする必要がなくなる。
科学者でない一般の人々も迷いなく、明確なガイダンスに沿って行動を起こすことができる。
科学的なエビデンスは同じ目的を持つ人々が、認識を共有する場合に役立つ。
4 「話し合い」でレベルを上げる
確執や対立が避けられそうにない場合は、まず話し合って、枠組みとなるような「基本的なルール」を作っておくことが薦められる。
バラバラの背景を持った利害関係者たちが、あらゆる状況や予想もつかないような要素を全て考慮に入れながら物事を決めることは難しい。
5 仕事の現場でどう活かすか 〜 実例編 〜
アクション・リサーチ法
どんな課題であっても、その問題を理解するには、まず「なにかやってみよう」というのが、このアクション・リサーチの考え方。
「戦略」と「実行」はコインの裏表のように分かちがたいものである。シンプルなルールがあれば、その二つのギャップを埋めることができる。時間や資源が限られている時でも、可能性を見出し、より良い決断ができる。それに、組織のそれぞれの部署が同じ目標のために強力することができる。
- 「利益の針」をはっきりさせる。
- ボトルネック(障壁)を見つける。
- ルールを強化する。
1 「利益の針」をはっきりさせる
「経済的価値を生む」ことは、会社にとって「何が大切か」ということを知る際の重要な指標になる。
上下に並んだ二本の針:上の針は「顧客があなたの会社の製品やサービスに払ってもいいと思う値段」。下の針は「製品を作るためにかかったコスト」。上下の針のギャップが大きいほど「経済的な価値を生んでくる」といえる。
経済的価値を創造するための3つのポイント
- 何を売るのか (WHAT)
- 誰をターゲットにするか (WHO)
- どのように届けるか (HOW)
2 ボトルネック(障壁)を見つける
企業が利益を生み出すうえで妨げとなる問題点を”ボトルネック”と呼ぶ。人材不足・資金不足・在庫不足など。
「シンプルなルール」を作る際には、数あるボトルネックの中の一つに焦点を当てることが重要。
同じ企業でも、部署が違えば仕事の目標も進め方も違う。そのため、部署間の壁を超えた共同作業には意見の対立がつきものだ。これがボトルネックとなるケースも多い。
プロジェクトの優先準備
- 急ぐ必要がある。
- あまり急ぐ必要がない。
- まったく急ぐ必要がない。
3 ルールを強化する
ルールづくりでやってはいけないこと=トップダウン方式は禁物
個人的なバイアスがかかりやすく、彼らが潜在的に考えていることに反するようなデータは無視しがちになってしまう。
ルールというのは実際にそれを運用する人が関わって作るべきで、四人から八人くらいで話しあって決めるといい。
6 「最良の選択」を可能にする 〜 人生設計 〜
プライベート版シンプルなルールの作り方
ステップ1 〜 「自分の幸せ」にこだわる 〜
「二本の針」で、上方の針は、「自分の人生において、何が生きがいになっているか」である。「下の針」は、「人生において解決しなければいけない課題」
「何が自分を幸せにするか」「何が自分の問題か」
- 何を改善したいか。最初に思い浮かんだもの三つを挙げる。
- 幸せを感じたり、満ち足りた気分になったりするのはどんな時か。
- 何に対して不安やストレスや恐怖を感じるか。
- 五年後、今の自分を振り返った時、しておけばよかったと後悔することは何か。もしくは人生の終わりに、あの時しておけばよかったと後悔しそうなことは何か。
- 親友なら、恋人なら、妻なら、夫なら、あなたについて1〜4の質問にどんなふうに答えるだろうか。(自分にとって本当に大切な人の答えも参考になる)
ステップ2 〜「無意識のワナ」を見つける 〜
ボトルネック(問題点)=無意識のワナを見つけ出す。
「どの分野における決断や行動を変えれば、人生の幸福度が著しく上がるか」が重要。
的確なボトルネックを発見する
- 本来望まないのに頻繁に選択してしまうことや、そのように行動してしまうこと。
- その問題に取り組むのに、時間やお金、エネルギーや集中力が足りていないこと。
- その問題は意思の力が必要か。
- その問題は柔軟さが必要か。
- ルールを作って試験的に運用したり、改編したりすれば、それによって結果に反映される問題だろうか。
ステップ3 〜「3つのカテゴリー」に落としこむ 〜
人生における膨大な関心事からシンプルなルールを導きだすには、一発で理想的な形を算出する「アルゴリズム」などない。
ルールづくりは十分な下調べが重要
- 自己価値の針を動かすために、うまく行ったこと。
- うまくいかなかったこと。
- 上記二項目のどちらでもないもの。
データ分析で見える「デートの成功率」
デート相手を見つけるまでの過程
- プロフィールを検索する
- 相手にメッセージを送る
- メッセージを交換する
- 実際に会ってデートする
- うまくいったことと反省点を分析する
ボトルネックはメッセージ
- 女性は長ったらしい文章が嫌いである
- 女性は数行程度の短い文章を好む
⇨ 「まずは短い文章で探りを入れる。長い文章は、ある程度親しくなってから」
初デートで失敗しないためには
- 「自分が会いたい女性とデートする。決して相手のペースに呑まれないこと」
- 「同じカメラアングルから撮った写真と、美女の写真は疑ってかかる」
7 激変の時代にこそ役立つ「弱点の強み化」
- 良い行動を促さないようなルールは、ルールが与えられないことと同様に、何の役にも立たない。
- シンプルなルールに従って経営戦略を立てている企業は、とりわけ、習得するまでが大変だといわれているルールを確立した企業は、得てして経済的成功を収めている。
- 「シンプルなルール」を状況の変化に合わせて修正するスキルは、ルール数は少ないまま、それでいて経営目標は一貫しており、なおかつ柔軟性も持ち合わせたルールへと変化させていく。
- 人はさまざまな経験をもとに、ルールを進化させていく。だが、完璧に思えるルールであっても、永遠に続くルールはない。時には、全てを破壊してつくり直さなければならない状況に直面する場合もある。
8 成功者は、つねに「ゼロベース」に立ちかえる
フットワークが軽い人
ルールを新しくつくりかえる時は、潔さが重要である。ゆっくり行動すると、必ずそこにためらいが入って、過去のルールと現在のルールの間で身動きがとれなくなる。思い立ったら即行動。それが重要。最も重要なことは、できるだけ早く変化をすること。
プライドを捨てた者だけが生き残る
人は経験から学ぶものだ。特に重要なのは、失敗から学ぶことである。
大きな混乱を経験した時にまず必要なのは、「自分たちが大きな変化に直面していること」を認識することだ。そして、表面的な理解を超えて、その奥で起こりつつあることをよく調べることだ。古いルールを打ち破り、できるだけ早く行動に移すこと。状況が変化した際にすぐに心を決めなければ、最悪の事態を招きかねない。
単純なものほど、じつは”ハイレベル”だ
「シンプルなルール」は、一朝一夕にはできあがらない。
シンプルであることは、複雑であることよりも難しい。物事をシンプルにするためには、必死に努力して思考をクリアにしなければならないからだ。だが、それだけの価値は絶対にある。なぜなら、ひとたびそこに到達できれば、山をも動かせるのだ。
企業の就業規則
規則が往々にして複雑化するのは、社内の信頼関係が築けていないことに起因する現象だ。
組織内に潜む”腐ったリンゴ”は、ほんのひと握りだ。97%の社員は、信頼に値する人物だ。残り3%の社員の問題に対処するために、膨大な時間をかけて就業規則を作成している企業は驚くほど多い。
9 「簡潔で美しいルール」の先に
アップルの創業者スティーブ・ジョブズの言葉
本当に優れた人は、問題の背後にある”本質”へと進んでいく。やがて、美しくて簡潔明瞭で、しかも、みごとに機能する解決策を掘りあてていくのだ。「単純」な答えと、「簡潔明瞭」つまり「シンプル」な答えは違う。
会社の経営においての三つのルール
- 情熱を感じるか(passino)
- 世の中に求められているか(opportunity)
- 自分たちの強みを活かせるか(capability)
人材採用についての五つのルール
- 仕事を楽しめること(passion):仕事にやりがいを見いだせるかどうか
- 粘り強く取り組めること(commitment):やりきる力、忍耐力
- 仲間と協調できること(teamwork):仲間と楽しく働けるかどうか
- 主体的に行動できること(leadership):自分の頭で考えて取り組めるかどうか
- 誠実さを備えていること(integrity):信頼を得るための最低限の要素
「嘘をつかない」「誠実に行動する」「真面目に努力する」
成功者とは「ルールづくり」に長けた人ばかり
「基本」を、コツコツと積み上げることで成果を上げている人ばかりであった。
イーロン・マスクは「とても重要なのは、”振りかえりの習慣”を持つこと」と語る。立ち止まって”振り返る”ことで人生のポジティブな側面を見つけ出し、自分を鼓舞している。
ルール作りがゴールになってはいけない。ルール作りを通じて、目指すべきゴールを再認識するきっかけがもらえる。だからこそ、完璧に練り上げられたルールでなくても、「まずは作ってみる」がカギなのだ。
サル,ドナルド
グローバル・ビジネスの戦略と実行においての専門家。全米屈指のビジネススクールであるマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校上級講師。ハーバード大学およびロンドン・ビジネス・スクール(LBS)元教授
アイゼンハート,キャスリーン
スタンフォード大学工学部教授。専門は戦略学。スタンフォードが運営するテクノロジー系起業家をサポートするプログラムの共同ディレクターでもある。著作に『変化に勝つ経営』(ショーナ・ブラウンとの共著、トッパン)があり、「マネジメント思考」の分野に大きな貢献をしたとして、「George R.Terry Book Award」(マネジメント学会主催)を受賞。