リーダー、起業家となる人には、二つの能力が必要になる。ひとつは、現状を正しく把握する力。ふたつ目は、困難の嵐がやってきたときに、次々と手を打つ能力だ。本書で、起業やビジネスで直面する困難にはどんなものがあるか、切り抜け方にはどんな方法があるのかを知る。
イントロダクション
よく知る努力をしない限り、何も知ることはできない。
コリン・パウエル元国務長官:「リーダーシップというのはたとえ好奇心からにせよ、人を自分の後に続かせる能力だ。」
もっとも大切なことは、自分がしたいことではなく、何が大切なのかという優先順位で、世界を見ることだ。とにかく一番大切なことを一番にしなければならない。自分のことを考えるより先に、私にとって大切な人たちのことを考えなくてはならない。
生き残ってやる ”I WILL SURVIVE”
私たちは史上最高のビジネスを構築しているように思えた。そこに、あの悲惨なドットコム・バブルの破裂が起きた。300人近い社員とほんのわずかな現金を手に、私たちはこれから死んでいくように感じていた。
人生で2種類の友達が必要だ。一つは、何かいいことが起きた時にその人を呼べば自分のために感動してくれる人。二つ目は、何か悲惨な状態になったとき、例えば生死の境にいて、一度だけ電話がかけられる時に呼び出せる人だ。
「起き得る最悪のことは何か?」返ってくる答えはいつも同じだった。「倒産し、母を含めて全員の財産を失い、ひどい不景気の中で一生懸命働いてくれた人たちを全員レイオフしなければならず、私を信じてくれた顧客全員が困難に陥り、私の評判は地に落ちる。」
会社が生きるも死ぬも、私の決断の質次第であり、その責任を回避したり、緩和したりする術はなかった。
生き残れるのかという根本的な問題は私の問題であり、私にしか答えられないものなのだ。
倒産せずにビジネスを継続する唯一の方法は、売上を伸ばすことだ。仮に従業員全員をレイオフしても、急激な売上成長がなければ、結局、設備費で会社が潰れるからだ。
去っていく人たちを公正に扱わなければ、残った人たちは二度と私を信用しないであろう。
直感を信じる
大企業でプロジェクト全体が遅れる原因は、必ず一人の人間に帰着する。小さな、一見些細なためらいが、致命的な遅れの原因になりかねない。
大変だった。しかし、楽しかった。その間に誰かがいなくなった記憶はない。「やるしかない。やらねばここにいられない。ほかの仕事を探さなくちゃならない。」という雰囲気だった。固い絆で結ばれたグループが一段成長した。
「やっていないことは何か?」を聞くのは良いアイデアだ。
物事がうまくいかなくなる時
会社の運営では、答えがあると信じなきゃいけない。答えが見つかる確率を考えてはいけない。とにかく見つけるしかない。可能性が10に9つであろうと1000にひとつであろうと、する仕事は変わらない。
「成功するCEOの秘訣は何か」とよく聞かれるが、残念ながら秘訣はない。ただし、際立ったスキルが一つあるとすれば、良い手がない時に集中して最善の手を打つ能力だ。逃げたり死んだりしてしまいたいと思う瞬間こそ、CEOとして最大の違いを見せられるときである。
多くの経営者は、失敗しないために何をすべきかに焦点を絞るが、大失敗した後に何をすべきかを考える。「常に死を意識せよ。」戦士が常に死を意識し、毎日が最後の日であるかのように生きていれば、自分のあらゆる行動を正しく実行できる。
人生は苦闘だ。 ー 哲学者、カール・マルクス ー
苦闘とは、自分自身がCEOであるべきだと思えないこと。苦闘とは、自分の能力を超えた状況だとわかっていながら、代わりが誰もいないこと。苦闘とは、自信喪失が自己嫌悪に変わること。苦闘とは、多くの人たちに囲まれていながら孤独なこと。苦闘は失敗ではないが、失敗を起こさせる。ほとんどの人は、そこまで強くない。しかし、苦闘は、偉大さが生まれる場所でもある。
辛い時に役立つかもしれない知識
- 一人で背負い込んではいけない。分けられる重荷はすべて分かち合おう。
- 単純なゲームではない。戦略が必要だ。しかし、打つては必ずある。
- 被害者意識を持つな。困難の全てはあなたの責任だが、どのCEOも無数の過ちを犯す。
- 良い手がない時に最善の手を打つ。偉大になりたいなら、これこそが挑戦だ。偉大になりたくないなら、あなたは会社を立ち上げるべきではなかった。
- あなたの会社がうまく行かなくなっても、それを気にかける人は誰もいない。
ありのままに伝えることが重要
- 信頼なくしてコミュニケーションは成り立たない。社員がCEOを信頼していれば、コミュニケーションの効率は圧倒的に良い。
- 困難な問題に取り組む頭脳は多いほど良い。
- 悪いニュースは遅く伝わり、良いニュースは遅く伝わる。
敗者が口にするウソ
会社が重要な戦いに敗れたとき、事実から目をそらす物語を必死につくろうとする。
離職した社員に、「元々会社が必要としていなかったので問題ない人」
顧客は製品を買っていた。ただ、我々の製品を買っていなかっただけだ。
逃げていることに気づいたら、自分にこう問いかけるべきだ。「我々の会社が勝つ実力がないなら、そもそもこの会社が存在する必要などあるのだろうか?」
人、製品、利益を大切にする ーー この順番で ーー
幹部の採用で私が身をもって学んだ教訓は、弱点のなさでなく、長所で選ぶべきだ。
「我々は、人、製品、利益を大切にする。この順番に。」人を大切にすることは、自分の会社を働きやすい場所にするという意味だ。会社が働きやすい場所なら、光明を見つける時間は十分にある。
良い組織では、人々が自分の仕事に集中し、その仕事をやり遂げれば会社にも自分自身にも良いことが起こると確信している。こういう組織で働けることは真の喜びだ。誰もが朝起きたとき、自分のする仕事は効率的で効果的で、組織にも自分にも何か変化をもたらすとわかっている。それが、彼らの仕事への意欲を高め、満足感を与える。
- 物事がうまく運んでいるときは、良い会社かどうかはあまり重要ではないが、何かがおかしくなったときには、生死を分ける違いになることがある。
- 物事は必ずおかしくなる。
- 良い会社でいることは、それ自体が目的である。
マクドナルドの従業員がそれぞれの仕事のための教育を受けているのに、それよりはるかに複雑な仕事をする人たちが教育を受けないのはおかしい。マネジャー自身が教育すべきだ。
人への投資の重要性4つ
- 生産性
最も重要なデータは生産的な社員を何人増やしたかというデータだ。
教育は、マネジャーにできる最も効果的な作業の一つだ。 - 業務管理
部下を教育するときに、明確な期待値を設定しておく。でなければ、業務管理の基準を設定できない。 - 製品品質
会社を立ち上げた時の美しい理念が、成功するにつれて諸々の惨事が生まれる。新しい社員の教育を忘れたからだ。 - 社員をつなぎとめる
会社を辞める主な理由
①人間関係
②何も教えてもらえない:会社が人に投資していなかったためだ。
職員面接段階でのミスマッチの察知
質問:仕事に就いて最初の1ヶ月に何をしますか?
「勉強」という答えを強調しすぎる人には要注意だ。
質問:新しい職場は、あなたの今の職場とどう違いますか?
仕事の違いを自覚しているかどうかに注目する。前職場体験を今すぐ応用できると思い込んでいる候補者は要注意だ。
質問:なぜこの会社に入ろうと思いましたか?
理由が仕事の本質と離れている場合は、要注意だ。
事業継続に必要な要素
組織に問題が生じたときに、必ずしも解決策は必要なく、単に事柄を明確化するだけで良い場合もある。
正しい成長は、それに伴う変化が不可避であることを認め、混乱を抑えることに積極的に取り組むことから生まれる。
社内政治とは:自分の能力による会社への貢献以外の要素で、地位向上を得ようとする全ての行動を指す。
社内政治を抑えるために
- 第一は、「正しい野心を持った人材を採用する」ことだ。
- 社内政治に繋がりそうな問題について、あらかじめ厳格なルールづくりをする。
特に、実績評価・給与査定・責任分野・昇進などに対して。
CEOが言う言葉の一言一言が、政治的駆け引きの弾薬に使われる可能性がある。
真剣に耳を傾けなければならない人事上の不満
- 社員の具体的行動に関するもの
双方を共に一室に招いて、直接双方に説明させるのがベストだ。 - 社員の能力や実績に関するもの
実際、どちらかの社員に重大な問題がある場合が多い。時間をかけすぎると不満が組織内に大きく広がってしまう。素早く解決するには、ほぼ全ての場合、問題社員の解雇が必要となる。
ただし、片方だけの言い分で苦情の相手を捌くことはできない。
優秀な人材が最悪の社員になる場合
- 無力感
不平を言うことだけが自分の意見を聞いてもらえる方法だと思っている。 - 性格が本質的に反乱者
- 未成熟で衝動的
経営者や上司がパーフェクトでなく、業務の全てを熟知しているわけでもなく、欠陥をそれと知りながら放置しているわけではないことを理解できない。
会社というのはチーム活動だから、本人にどれほどの才能があろうと、チームメンバーとして信頼されなければその才能を成果に結びつけられない。
個人面談
日常業務に関してCEOのなすべき最も重要な任務は、社内のコミュニケーションの仕組みを作り、円滑に作動するよう維持することだ。
個人面談は、情報とアイデアを流通させるための非常に効果的な仕組みだ。個人面談を効果的にする鍵は、その主人公は上司ではなく部下である社員だということを理解するところにある。
社員から事前に個人面談のテーマを出させておく。上司は聞き役に徹し、社員に90%以上話させ、上司が話すのは10%以下に留める。ただし、管理職は重要な問題を社員から引き出すよう気を配らねばならない。
[ 個人面談で役に立つ質問 ]
- 我々がやり方を改善するとしたらどんな点をどうすれば良いと思う?
- 我々の組織で最大の問題は何だと思う?その理由は?
- この職場で働く上で一番不愉快な点は?
- この会社で一番頑張って貢献してるのは誰だと思う?誰を一番尊敬する?
- 君が私だとしたら、どんな改革をしたい?
- 我々の製品で一番気に入らない点は?
- 我々がチャンスを逃しているとしたら、それはどんな点だろう?
- 我々が本来やっていなければならないのに、やっていないのはどんなことだろう?
- この会社で働くのは楽しい?
企業成長期待の誤り
- 企業成長に対応するのは天性でできることではなく、実際の経験から学ぶ過程だ。
- 何かが起きる前に社員の対応能力を決めつけてしまうことは、その能力の発達に悪影響をもたらす。
やるべきことに全力で集中する
起業家として学んだ最も重要なことは、何を正しくやるべきかに全力を集中し、これまで何を間違えたか、今後何がうまくいかないかもしれないか、について無駄な心配をすることをやめることだ。
CEOとして最も困難なスキルは、自分の心理のコントロールだった。
最初の問題は、CEOになるためのトレーニングが存在しないことだ。CEOのトレーニングは実際にCEOになる以外にない。愚行は結局すべてCEOの責任なのだ。
CEOが最も重要な問題に対して何の手も打たないことにより、社員の間でフラストレーションが蓄積する。
正しい結果を得る鍵は、楽観的、悲観的いずれかの極端な解釈に自分を縛り付けないようにすることだ。
悲惨で破壊的な選択肢のどれかを選ぶ立場に置かれるのが嫌なら、CEOにならないことだ。
業界で最も賢明な人々に相談しても、最終的には自分一人で決断する。誰にも答えはわからないし、その答えが何であっても、決めるのは自分、その結果の責を負うのも自分なのだ。
全ての会社が、存続の危機に何度か直面せざるを得ない、と理解しておくことは重要だ。
[ 心を静めるテクニック ] 〜危機に直面する際に役立ついくつかの心構え〜
- 友達をつくる。
質の高い助言を得られる可能性は低いが、心理的には極めて有益だ。 - 問題を書き出す。
自分の心理的呪縛から自由になり、決断を下しやすくなった。 - 側壁ではなくコースに意識を集中する。
何を避けるべきかに意識を向けず、これから何をなすかに意識を集中すべきだ。
偉大なCEOたちの答えは、皆同じだった。
「私は投げ出さなかった。」
恐怖と勇気は紙一重 〜英雄と臆病者の違い〜
臆病者:直面すべきことに直面しようとしない。
英雄:自身をしっかり制御し、恐怖を跳ねのけてやるべきことをする。
しかし、英雄も臆病者も感じる恐怖は同じだ。
組織運営の2種類の重要スキル
- 何をすべきかを知ること。
- そのなすべきことを実際に会社に実行させること。
たいていのCEOは、どちらか一方を得意とする傾向がある。
理想的なCEOのタイプ
偉大なCEOに共通して必要とされる唯一の資質は、リーダーシップだろう。
[ リーダーに従いたくなる要因 ]
- ビジョンをいきいきと描写できる能力
- 正しい野心
- ビジョンを現実化する能力
起業家のための第一法則 〜困難な問題を解決する法則はない〜
ビジネスでは「何もかも順調」と思った瞬間、天地が崩れるようなことが起こる。そんな時に「理不尽だ」と言っても始まらない。とにかく全力で対処し、しばらくはこっけいに見えても、気にしないことだ。
トップクラスの人材のチームがなければ、どんなCEOといえどもトップクラスの企業は作れない。当初はトップクラスの人材だった幹部社員の多くは時間と共に劣化する。
面接の時に印象的で身元照会の結果も素晴らしかった候補者が、入社してから期待通りの能力を発揮するとは限らない。
- 採用時、その人の全てを知ることはできない。
- 新採用・昇格させた社員に対し、職務に馴染ませるためオリエンテーションに時間を割くのは普通だ。
- CEOは部下の育成に割ける時間がほんのわずかしかない。
- 採用は強さを伸ばすために行うべきで、弱さを補うために行うべきではない。
最後のレッスン
CEOは、特に公に弱みを見せることは許されない。CEOは常に絶対の自身を見せていなければならない。
会社経営の本当の困難は、簡単な答えや処方箋が存在しない部分にある。本当の困難は論理と感情が矛盾するところにある。本当の困難は、どうしても答えが見つからず、しかも自分の弱みを見せずには助けを求められないところにある。
「人生は苦闘だ」この言葉こそ起業家にとって、最も役立つ教えだ。
ベン・ホロウィッツ(Ben Horowitz)
シリコンバレー拠点のベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者兼ゼネラルパートナー。次世代の最先端テクノロジー企業を生み出す起業家に投資している。投資先には、エア・ビー・アンド・ビー、ギットハブ、フェイスブック、ピンタレスト、ツイッターなどがある。それ以前はネットスケープなどを経て、オプスウェア(元ラウドクラウド)の共同創業者兼CEOとして、2007年に同社を16億ドルでヒューレット・パッカードに売却した。ホロウィッツは、コンピュータサイエンス専攻の学生、ソフトウェアエンジニア、共同創業者、CEO、投資家という経歴から得た体験と洞察をブログに書き、1000万人近い人々に読まれている。サンフランシスコのベイエリアに、妻のフェリシアと共に暮らしている。