カウンセリングとは何か 〜変化すると言うこと〜

  1. まえがき ふしぎの国のカウンセリング
  2. 第一章 カウンセリングとは何か 〜心に突き当たる〜
    1. 現代カウンセリングの基礎知識
    2. プレーンなカウンセリング理論へ
    3. カウンセリングとは何かーー横軸篇
    4. カウンセリングとは何かーー縦軸篇
    5. 心とは何か
  3. 第2章 謎解きとしてのカウンセリング 〜不幸を解析する〜
    1. 聞くだけじゃない 探偵としてのカウンセラー
    2. 説明モデル理論
    3. インテーク面接とは:最初に持たれるカウンセリング
    4. インテーク面接での情報収集 最初の40分の表側
    5. インテーク面接での情報収集 不幸の解析法 最初の40分の裏側
    6. 物語を処方する 次の10分(説明)
    7. 戦略の交渉 最後の10分(提案)
  4. 第3章 作戦会議としてのカウンセリング 〜現実を動かす〜
    1. カウンセリングの2つのゴール・目標
    2. 作戦会議としてのカウンセリングとは何か
    3. 作戦会議の実際①ーー現実を整える
    4. 作戦会議の実際②ーー現実と付き合う
    5. まとめ 破局を生き延びる
  5. 第4章 冒険としてのカウンセリング 〜心を揺らす〜
    1. 生活と実存
    2. 学派について
    3. サイコロジカルな介入
    4. 安定と動揺
    5. 冒険の方法 〜いかにして心を揺らすのか〜
    6. 冒険のためのインテーク面接
    7. 人生の脚本 〜冒険のためのアセスメント面接〜
    8. 精神分析超入門
    9. 信頼の構築
    10. 転移の発展
    11. 破局の危機
    12. 心の再発達
  6. 第5章 カウンセリングとは何だったのか 〜終わりながら考える〜
    1. 終わりとは何か 毎回のミクロな終わり
    2. 終わりのはじまり 終わりたくなる
    3. 終わりを話し合う
    4. 終われなかった終わり
    5. 終わりなき終わり
    6. 終わり切る終わり
  7. あとがき 〜運命と勇気、そして聞いてもらうこと〜
    1. 終わったあとに思い出す

まえがき ふしぎの国のカウンセリング

 〜カウンセリングとは何か〜
 二つの特徴がある。一つは、「社会からのまなざし」であり、もう一つは、「変化すると言うこと」への注目である。この二つは相互に絡み合っている。
 視点を社会の側に置くと、カウンセリングとは実務であり、常に具体として存在するものである。
 カウンセリングの本質は人が変化することにある。生活が危機に陥るとき、人生が行き詰まるとき、カウンセリングを訪れ、話し合いがなされ、生活が変わり、人生が変化する。
 「社会からのまなざし」と「変化するということ」への注目。この視点から見ることによって、カウンセリングは遠いふしぎの国ではなく、僕らの日常と地続きにある場所に見えてくる。

第一章 カウンセリングとは何か 〜心に突き当たる〜

現代カウンセリングの基礎知識

・心理療法・精神療法・精神分析
 心理士が行う場合は「心理療法」、精神科医が行う場合は「精神療法」と呼び、実質的には同じこと。「薬物療法」は、薬を使って身体を変化させることを通じて、心を変化させる方法。
・資格について
 公的資格は臨床心理士、公認心理師。
 臨床心理士:文部省認可の法人が認定している民間資格だが、大学院での訓練が必要。
 公認心理師:2017年にできた国家資格。学部と大学院の6年間の訓練が基本。
 2025年現在、現場でカウンセリングをしている多くが両方の資格を持っている。
・学派ついて
 ① 力動学派
  無意識という心の深いところを扱うジークムント・フロイトの精神分析の子孫たち。
  アルフレッド・アドラー、カール・グスタフ・ユングなどは分派し自分の学派を作った。
 ② 認知行動学派
  行動という目に見えるものをターゲットにした行動療法。
 ③ 人間性心理学派
  ロジャースが代表者。人と人との出会いに治療的な価値ウィお見出したのが特徴。
 ④ システム論学派
  外部にある人間関係に問題を見出し、それを変更していこうとする学派。家庭療法、ブリーフセラピーなど。
・現場について
 [ 無料の場合 ]
  日本では多くのカウンセラーは組織に雇われる形で働いている。スクールカウンセラー等。
 [ 有料の場合 ]
  開業カウンセリングルーム等。カウンセリングの中心はユーザーの個人的なニーズを絶対的な中心。
 組織がお金を払っている場合には公共的な目標(病気の回復や社会適応)が優先されやすく、ユーザー本人がお金を払っている場合には個人的な目標(プライベートな価値観や人間関係)が扱われやすくなります。
<ミニコラム 〜カウンセラーの探し方〜>
 ① 臨床心理士と公認心理師の資格を持っているか
 ② 学派に所属して活動しているか(発表、論文、研修の実績)
 ネット情報だけではわからず、一度会ってみるのがおすすめ。

プレーンなカウンセリング理論へ

・様々なカウンセリングの共通構造
 カウンセリングとは、心の問題で苦しんでいる人に対して、心理学的に理解して、それに即して必要な心理学的な介入を行う専門的な営みである。

カウンセリングとは何かーー横軸篇

 問い①:カウンセリングは誰でもやっていることだ。
 非常時の心とは、周囲から理解されにくい状態になり、孤立し、孤独になってしまうこと。孤独は悪循環し、エスカレートし、「心の病」となる。
 非常時の心を理解し、心が必要としているケアを提供するため、専門的なトレーニングを受けたカウンセラーの出番がやってくる。
 一般市民が常識に基づいて心を理解し、対処しようとするのに対して、専門家であるカウンセラーは心の非常時についての学問を背景として、話を理解し、対処する。

カウンセリングとは何かーー縦軸篇

 問い②:カウンセリングは宗教や占いみたいなものだ。
 「どのような歴史的経緯から生まれてきたのか」これが縦軸にあたる。
・霊的・宗教的治療
 シャーマニズム:霊のような超自然的な力を操る治療。
 現在の生活の中にもこのような霊的・宗教的治療の伝統は生きている。厄払いに行く、神社のお守りを買うなど、日常的に行なっている。
・医学的治療
 宗教から科学へ。神の力を借りずに、医学の力で治療する。
・動物磁気と催眠
 動物磁気:人体に備わる磁気の力。現代で言えば、オーラとか気とかそういう見えないエネルギーのこと。心の非常時を人間の外側にいる神とか悪魔の仕業にせず、人間の内側にある何らかのエネルギーの仕業にしている。
 催眠:心の問題に対して、心に働きかける暗示によってアプローチする。これが催眠。暗示を用いるので、喋るのは治療者で、聞くのはユーザー。
 フロイトは逆のことを始めた。ユーザーが喋り、治療者が聞く。これが精神分析であり、現代のカウンセリングの元祖である。
・社会的支援
 心のせいにするということが、個人を責めることにつながってしまうことがある。過剰な自己責任にカウンセリングが加担してしまう可能性だ。
 いじめがある時、必要なのは心を変えることではなく、環境を変えることだ。いじめを止めることこそが最初になされなければならない。この点で心に問題を見出すことには危険がある。
 問題を外在化=外側に見出す支援の大事さが現代では特に強く言われるようになった。
 外側の世界を変えることを「社会的支援」と呼び、それを専門にするのがソーシャルワーク。
 現代のカウンセリングには社会的支援の発想が取り入れられている。すべてを心のせいにすると暴力になるから、環境を変えることもまたカウンセラーの大事な仕事になったということだ。
・近代のテクノロジー ーーアラン・ヤング(医療人類学者)ーー
 [ エクスターナルな治療 ]
  問題を外在化する治療 霊的治療や社会的支援。
  お互いが名前を知っているような狭い村落共同体で機能しやすい。
 [ インターナルな治療 ]
  問題を内在化する治療 現代医学の身体的治療やカウンセリング。
  互いを知らない大きな都市で機能しやすい。

心とは何か

 悩みの4分類
 ① 症状の悩み、② 不適応の悩み、③ 人間関係の悩み、④ 生き方の悩み
 色々な可能性を試して、どうしてもうまくいかなかったときに、心に突き当たる。カウンセリングとは長い回り道(無駄足ではない)をした果てにたどり着くものだ。
「自己」
 自分の中の思い通りにならないもの。
 私の中の非私のことと定義。トラウマ、気分、衝動、無意識など
「世界」
 自分の外側にある環境。
 物理的外界、社会、他者など
「心」
 自己と世界の中間にある。二つを調整する装置。

 体がひどく疲れている(自己)。会社では山積みの仕事がある(世界)。心はその中間で「頑張ろう」と鞭を入れたり「ほどほどでいいや」と緩めたりして、生活や人生をやりやすくする。
 自己も世界も現実的に変えられる余地が乏しいときに、心という問題に突き当たる。このとき、登場するテクノロジーがカウンセリングである。

第2章 謎解きとしてのカウンセリング 〜不幸を解析する〜

聞くだけじゃない 探偵としてのカウンセラー

 アセスメント:謎解きして、理解する。
 探偵とカウンセラーはよく似ている。不幸を解析し、治療方針を決める。
 知性を使い、喋り、ユーザーに納得してもらい、一緒にカウンセリングをやっていこうという気持ちになってもらう。
 即座に物事を解決するのにはあまり向いておらず(頑張る時もあるが)、時間の力を使って、心や状況が少しずつ変化して行くことを後押しする。

説明モデル理論

 医療人類学者クライマンの説明モデル理論
 説明モデルとは、なぜその不幸が起こったのか、それは何をすれば回復するのかを説明する物語のことである。あらゆる治療は、治療者とユーザーが同じ説明モデルを共有するときにうまくいく。説明モデルは「解明」「説明」「提案」の3つの要素に分けることができる。

インテーク面接とは:最初に持たれるカウンセリング

 「心理学的に理解すること」いわば謎解き=「アセスメント」がコアとなる。
・インテーク面接の役割
 ユーザーの置かれている環境や本人の性格構造、そして問題の経緯を詳しく聴取し、説明モデルを生成する。成功は、この説明モデルの共有の是非にかかっている。
・インテーク面接の時間構造
 普段のカウンセリングは45分。インテーク面接は60分で設定。
 ① 想像を巡らせる 申し込みから当日まで
 ② 情報収集と解析 最初の40分
 ③ 物語の処方 次の10分
 ④ 戦略の交渉 最後の10分
・主訴を書く
 インテーク面接の前段階で最も重要なのが「主訴を書く」だ。相談したいことを専門用語で「主訴」という。主訴を書くことを通じて、ユーザーは自分を振り返り、少し客観視することができる。
・想像を巡らせる
 カウンセリングがはじまる前から、心は動きはじめている。他者を頼ろうとした小さな希望であり、カウンセリングの出発点に存在している種火である。この火が最終的に立ち消えてしまわないように、カウンセラーは注意を払い続ける必要がある。

ミニコラム 〜事務のケア力〜
 ネット上での病院の口コミで「受付の態度が悪かった」と書かれることが多いように、事務対応が適切ならカウンセリングへの安心感を生み出す。事務の本質は、当たり前のことが当たり前に進むことにある。事務手続きを安心できるものに整えることも、カウンセラーの大切な仕事である。

インテーク面接での情報収集 最初の40分の表側

 インテーク面接の中身:① 原因の解明(情報収集と解析)40分、② 説明(物語の処方)10分、③ 提案(戦略の交渉)10分 の順で進んでいく。

原因の解明(情報収集と解析)40分
 主訴:インテーク面接での謎解きの対象
 「情報のシステマティックな収集」と「集めた情報の心理学的解析」の二つがなされる。
 [ 質問の仕方 ]
 順番:1 ) 問題歴ーー過去を遡る、→ 2 ) モチベーションーー未来とつながる、→ 3 ) リソースーー現在を確認する。
1 ) 問題歴ーー過去を遡る
 何よりも肝心。問題の全体像を捉えることが優先される。質問を重ねユーザーの好奇心を活性化させ、一緒に謎解きをしていく。
2 ) モチベーションーー未来とつながる
 ユーザーのカウンセリングに対するモチベーションがどこにあるのか。未来をどのように思い描いているのかを質問する。「どうなるのがよいのか、わからないこと」そのものが、カウンセリングで改善すべき未来の目標。目標が明確にされ、カウンセラーとユーザーが二人で共有できる形へと変形される必要がある。
3 ) リソースーー現在を確認する
 ユーザーの助けとなり、サポートとなりそうな資源がどれくらいあるか、情報収集を行う。
 ・経済的リソース
  お金、仕事、家は賃貸か持ち家か、などユーザーの経済状況。
 ・社会的リソース
  友人や同僚、恋人や家族、相談できる相手、などユーザーの人間関係の量と質。
 ・心理的リソース
  メタ認知能力、発達特性、精神疾患。「希望」と「絶望」の分量。趣味。仕事のやりがい。

インテーク面接での情報収集 不幸の解析法 最初の40分の裏側

〜カウンセラーは不幸をいかに解析しているのか〜
a、 破壊度の評価ーーいかなるカウンセリングが役に立つのか
b、 問題の所在ーーカウンセリングでどこを変化させるのか
c、 物語化ーー問題の全体的メカニズム

a、 破壊度の評価ーーいかなるカウンセリングが役に立つのか
 破局:生活の危機のこと。どれくらい切迫していて、生存の危機にさらされているか。
 1 ) 火急性/不急性:切迫度そのものの判断。
 2 ) 外部性/内部性:原因が本人の内部にあるか、外部にあるか。
 3 ) 現在性/歴史性:問題がいつから起きているか。急性の問題か慢性の問題か。
 前者があれば、破局度が高い。目の前の問題解決を優先する必要がある。
b、 問題の所在ーーカウンセリングでどこを変化させるのか
 問題は自己(身体)に生じているか、世界(環境)に生じているか、心に生じているか。
 優先順位は外部の問題の世界と自己。その後に内部の問題の心が扱われる。
c、 物語化ーー問題の全体的メカニズム
 謎解きの本丸。インテーク面接では全体的な方向性をつかむ。カウンセラーは仮説を練り上げ、物語化する。問題歴・モチベーション・リソースをすべて含んだ因果関係の物語。ユーザーを苦しめている犯人たちの関係図。

・心をわかること二つ 〜これがアセスメントの核心〜
 1 ) 「心の置かれている全体状況」をわかること。どのような経緯で今の苦しみがあるのか。
 2 ) 「心の働き方」。ユーザーの心がどのような働き方をしやすいのか。

物語を処方する 次の10分(説明)

〜カウンセラーが話をするターン〜
 聞くのではなく喋りまくる必要がある。医学で言えば、診断を伝えるフェイズ。ユーザーにとっては、インテーク面接のクライマックス。
 この段階でカウンセラーの示す物語が的外れであり、ピンとこなければ、その後のカウンセリングはうまく進んでいかない。2回目自体が存在しなくなる。

戦略の交渉 最後の10分(提案)

 今後についての話し合い。
 カウンセラーの側から戦略の提案がなされる。戦略とは、どこに目標を置き、どのような手段でそれを達成しようとするかの計画のこと。
 「二つのプラン」「リスク」「お金と時間」の3点を基本的に提示する。
 うまくいったインテーク面接はユーザーに希望を処方し、未来を提示する。次の約束があること。結局これがすべてなのかもしれない。
 心が変化するための土台になるのは「理解」だ。

第3章 作戦会議としてのカウンセリング 〜現実を動かす〜

 〜人はいかにして変化するのか、変化するとはどういうことなのか〜
 2種類のカウンセリング「作戦会議としてのカウンセリング」「冒険としてのカウンセリング」

カウンセリングの2つのゴール・目標

・作戦会議としてのカウンセリング
 生存:困難な状況の中で、生き延びること。
 「生活」物理的、身体的、経済的、短期スパンで評価可能。
・冒険としてのカウンセリング
 実存:その人独自の生き方。いかに生きるか。
 「人生」文学的、演劇的、歴史的、長期スパンで想像。過去を振り返り、未来を展望する。
 インテーク面接で、どちらが問題となっているか見極めなければならない。

作戦会議としてのカウンセリングとは何か

 生活を立て直し、生存を確保するためにあり、現実を動かすためにある。生活の破局度が高い人に向けて行われる。
 まずは身体や環境をできる限り変化させるよう試みる。しかし、どうしても変えられない部分が残るとき、心の出番がやってくる。身体との付き合い方を探し、世界との折り合いを模索する。これらを手伝うのが作戦会議としてのカウンセリングだ。
・作戦会議としてのカウンセラーの役割
 併走する冷静な第三者
 ゴルフのキャディ、ボクシングのセコンド、家庭教師

作戦会議の実際①ーー現実を整える

 生存をゴールとする。
 自己と世界を動かす。身体の調子を整え、環境を改善する。「バイオロジカルな介入」とソーシャルな介入」生存は安全によって可能になる。ユーザーを現在進行形で傷つけているものたちを遠ざけ、安全を回復する。

A ) バイオロジカルな作戦会議 身体を動かす
 カウンセリングの最初期に試みられ、脳や身体の状態を生物学的に変化させること。
[ 対処 ]
① 医療の使い方 医療機関の紹介。
② 休養のススメ 休学、休業など公的に休むことの保証。
③ 運動と生活リズム 運動を進めたり、生活リズムを整える。

ミニコラム ラボールについて
 ラボールとは、カウンセラーとユーザーの間で結ばれる信頼関係のこと。「役にたつ。このカウンセラーは使える。」的確なアセスメントと具体的な対応から生まれる

E ) ソーシャルな作戦会議 世界を動かす
 家族や学校、職場、役所の窓口に掛け合って、ユーザーを取り巻く環境を調節する。社会的支援。ソーシャルワーク。心を動かす前に、まず世界を動かす。
 「安全」。危険な環境を安全なものに変えるのがソーシャルな介入の原則。
[ 引き算の介入 暴力を止める ]
 DVやハラスメント、虐待やいじめは、直ちに止めなければならない。ハードで直接的な介入は「通報」。警察、児童相談所、学校、職場の窓口などに、しっかり「暴力」だと名指す。
[ 足し算の介入 ケアを増量する ]
 安全の足し算。経済的支援、生活支援の増量。
 職場にお願いして、仕事量を減らしてもらう、休職することもある。
 お金、食事、作業の手助け、生活保護などの公的制度利用

作戦会議の実際②ーー現実と付き合う

 変えられるものを変えた後に、それでも残った変わらない現実といかにして付き合うか。このときに扱われるのは、心の表層の部分、自己と心との界面、世界と心との界面である。
[ 作戦会議の目標 ]
 作戦会議で目指される「現実との付き合い方」2つ
・コーピング
 困った状態への対処法のこと。辛くなったときに試せるテクニックを複数知っておくことが大切。ユーザーなりのコーピングをカウンセラーと2人で開発していく。
・気づき
 本質的なのは「気づくこと」にある。心は、自分に起きていることに気づいた瞬間に、すでに変化は成し遂げられている。

B ) ソマティックな作戦会議 からだを動かす
 「ソマティック」とはギリシャ語で「からだ」という意味。
・からだへの配慮
 心の不調はからだに現れてくるし、からだの回復が心の回復につながる。
 早く寝る。美味しいものを食べる。軽い運動をする。
・記憶への対処
 トラウマに対してさまざまなソマティックな介入が開発されてきた。トラウマはからだに刻み込まれる。「考えないようにしよう」と意志の力でどうにかしようとしても、多くの場合うまくいかない。
 からだに刺激を与え、身体に刻み込まれているトラウマから抜け出そうと試みる。

D ) コグニティブな作戦会議 視点を動かす
 コグニティブとは「認知的」という意味で、心が世界をどう捉えるかという「視点」のあり方のこと。「視点を動かす」ことがコグニティブな介入で試みられることだ。
・世界をかわす/浴びる 行動を変える
 視点のある場所をそもそも動かしてしまう。
 「かわす」行動:リスクのある行動をとらないようにする。
 「浴びる」行動:スモールステップで怖さに慣れていく。
・世界の受け取り方 認知を変える
 視点の場所はそのままで、トゲの意味付けや受け取り方を変える。
 自分を客観視し、現実を確かめていく。世界には今までに見えていなかった現実も存在していたことに気が付く。

まとめ 破局を生き延びる

 作戦会議としてのカウンセリングは、現実的に生き延びるための現実的な作戦会議をするカウンセリングであった。「外側から内側へ」が介入の原則。
 ひとりじゃない。これが、作戦会議としてのカウンセリングの根源にある力である。自分には作戦会議をする場所がある。共に立ち向かう。

第4章 冒険としてのカウンセリング 〜心を揺らす〜

 作戦会議としてのカウンセリングが終わり次のステップが2通り
→ ① 生活が安定し、日常が回復し、カウンセリングの取引終了。
→ ② 目の前の問題は解決。しかし、本当の問題が残っている時、冒険としてのカウンセリングが始まる。

生活と実存

 実存が問われるのは、人生が行き詰まっているとき。生活はできているが無理な生き方をしている気がする。なにかがおかしいと感じ、このままでいいのかと思っている。「いかに生きるか」自分に問いかけるときに、冒険としてのカウンセリングの出番がやってくる。
 「実存は生存を前提とする。しかし、生存は時に、実存を犠牲にする。」生きるために、心の一部を殺さざるを得ないことがある。きわめて不自由にしか生きられない心がいる。「贅沢な悩み」なんかではなく、「切実な悩み」のはず。

学派について

 冒険としてのカウンセリングの元祖はフロイト。
 「無意識」なるものを発見し、それを探索するための「精神分析」という方法を編み出した。その後、精神分析を飛び出たユングやアドラーは自分の学派を立ち上げた。「無意識」を想定する学派のことを総称して「深層心理学」と呼ぶ。

サイコロジカルな介入

 本質は心を揺らすことにある。
[ 心の構造 ]
 ・ 硬い表層 ーーーーーー鎧ーーーーー心の中の大人の部分ーー意識ーーー自我
 ・ ドロドロとした深層ーースライムーー心の中の子供の部分ーー無意識ーーエス

 過去に頼れる他者がいないまま、ひとりでサバイブし、セルフで作戦会議を行い、高度に心を防衛してきた。生きるために、心の一部を殺さざる得なかった。これが過剰になった鎧の正体。傷ついたスライムに触れないように心が不自由になっている。
 冒険としてのカウンセリングは、鎧を緩めて、スライムを再起動する試みである。

安定と動揺

 作戦会議としてのカウンセリングは心を安定させる。
 冒険としてのカウンセリングは心を動揺させる。生きるために硬化していた鎧を揺り動かす。見えなくなっていた自分の中を冒険し、生きてこなかった自分に出会っていく。
 作戦会議が必要なユーザーに冒険を処方すると危険なことになる。

冒険の方法 〜いかにして心を揺らすのか〜

 ① 鎧を緩める ② スライムを生き直す
① 頻度と期間 〜鎧を緩めること〜
 高頻度で、そして長期で会う。究極的には、心を揺らすのは、他者である。他者に慣れる時に、鎧は緩まる。「心を揺らす」というのは無理矢理行うことではない。心をトンカチで叩くのではなく、お湯でゆっくり戻していくイメージ。
② 舞台設定 〜スライムを生き直すこと〜
 スライムを生き直すための舞台を用意する。学派によりさまざまだが、精神分析だと、スライムはカウンセラーとユーザーの人間関係を舞台として展開していく。
 ユーザーはカウンセリングのプロセスで、愛や憎しみ、嫉妬や依存をカウンセラーに向けることになり、スライムの心を生き直していく。これを「転移」と言う。
 スライムが生き直すための舞台を準備するのが冒険としてのカウンセリングの技法。
③ カウンセラーの役割
 凍結されていた物語を再起動することが試みられる、一種の演劇がなされる。主演俳優はユーザー。カウンセラーが務めるのは、舞台監督兼助演俳優になる。

冒険のためのインテーク面接

 まず、作戦会議に適したユーザーと冒険に適したユーザーを見分ける。

・冒険のきっかけ 〜ユーザーの主訴〜
 ① 慢性的な症状
 周りは気づかないのだけど、本人の生き方をひどく不自由にしている症状。セルフ作戦会議をさんざんやって、高度な防御システムを構築し、作戦会議としてのカウンセリングでは歯がたたない。
 ② 親密な関係の不全
 愛と孤独の問題。家族やパートナーなど人生を共にする他者との関係が危機を迎えていたり、そのような相手がそもそも存在しない。父母との間にある傷つき、恋愛や不倫、性的な関係での困難など。人生全体が問題になる。
 ③ 自分への違和感
 他者とのつながりではなく、自分とのつながりの問題。自分の一部を犠牲にしてきたことが実感される。

・冒険の適性 〜カウンセラーのアセスメント〜
 ① 生活の安定
 生活の安定なくして、実存の冒険はありえない。生活がどのような状態かは入念に押さえる。
 ② 古傷
 ユーザーの抱えている問題が歴史的に生じてきたものであり、かつて負った古傷によって不自由な生き方になっている。古傷がインテーク面接の段階で明白であることは稀。古傷を隔離するために、鎧が存在しているため。インテーク面接では、その可能性を見出す必要がある。
 ③ 死と麻痺
 ユーザーの心の麻痺している部分、あるいは死んでいる部分の存在。自分の話をしているのに、どこか上滑りしていて、気持ちが感じられない。特定の話題だけ突然解像度が低くなり、感情が暴走する。
 心に機能している部分と機能不全の部分がある。局所的に子供のような未熟な部分がある。

人生の脚本 〜冒険のためのアセスメント面接〜

 インテーク面接でのアセスメント以上に、大掛かりに具体的に何度か会って行われる。
① 生育歴
 これまで生きてきた歴史を丹念に聞き取り、ユーザーの人生の脚本を明らかにする。インテーク面接の次の回から、5〜6回かけて行う。注目するのは、人間関係。特に、家族関係の影響は圧倒的。心の深いところに沁みついた人間関係のプロトタイプがあり、それが心そのものを構造化し、人生を不自由にしている。
② 契約面接
 今後やっていく冒険の目的を明確にし、今後の約束をする。文書にして二人でサインし、それぞれに一部ずつ持っておく。
 冒険が始まると、カウンセリングはひどく混乱していくことになるので「何のためにこのカウンセリングをやっているのか」を二人で決めた文章にいつでも立ち戻れると助かる。お互いに「同意」し、「契約」する。この作業が、危険な冒険のためのできる限りの安全弁となる。

ミニコラム︎ カウンセリングの期間
作戦会議としてのカウンセリング:3ヶ月で終わる人も結構いる。
冒険としてのカウンセリング:3年かかる人もいれば、10年続ける人もいる。

精神分析超入門

・転移 理論の中核
 転移とは、人生の脚本がカウンセラーとの間で再演されること。人生の脚本とは、人生の中で反復されてきた人間関係のこと。
 陽性転移:愛情や信頼のようなポジティブな感情
 陰性転移:憎悪や不信のようなネガティブな感情
 しかし、これらは簡単に反転する。愛と憎しみは絡み合っている。
 関係が深まると、転移が発生し、ユーザーはカウンセラーに対してさまざまな感情を抱くようになる。カウンセラーは転移を引き受ける。転移こそが心を揺らすための舞台である。
 ユーザーの古傷を知り、そして古傷をやり直していく。これが精神分析の中核作業になる。
・具体的なルール 技法の中核
[ 自由連想 ]
 ユーザーがなすべきことはシンプル、自由連想である。
 例え話したくないことでも、心に浮かんでいることを全て話さなければならない。相手の期待に応答する日常の会話のルールとは違う。
[ 解釈 ]
 話を聞いて、カウンセラー側から見えていること、思い浮かんだことを伝える。例えば、ユーザーが怒りを語っても、カウンセラーからは寂しさに見えるなら、それを伝える。
 自由連想と解釈が共鳴したり、ぶつかったりして、心が揺れる。

⚪︎ 冒険の4大原要素
① 晴の船出ーー信頼の構築
② 雨雲が集まるーー転移の発展
③ 嵐の夜ーー破局の危機
④ 凪いだ朝ーー心の再発達
 これらは、順番通りに進むものではなく、何度も何度もループする。
 冒険としてのカウンセリングとは物語的営みであり、そこで生じるのは文学的変化である。

信頼の構築

 今まで話せなかったことを話せたことで、不自由だった部分が自由になり、コミュニケーションの幅が広がっていく。冒険のはじまりの時期は、このような小春日和がやってきやすい。カウンセラーとの信頼や希望、勇気が生じて、善き変化を起こす。
 ほとんどの場合、晴れの船出は長く続かない。

転移の発展

 「役に立たないカウンセラー」「軽蔑の雨」「無駄なカウンセリング」
 雨雲が集い、空を暗くしていく。心は少しずつ揺れはじめる。鎧が緩み、スライムが顔を覗かせる。転移が深まると、カウンセラーも脚本の登場人物の役を割り当てられ、違う自分が引き出される。
 カウンセラーは、転移について率直に話し合う。「僕に腹を立てているみたいですね。」
 しんどい作業だが、このプロセスからユーザーは普段と違う自分を生き始めることになる。

破局の危機

 転移が高まり、煮詰められ、カウンセラーへの想いが極点に達する。
 破局は勇気によって引き起こされる。勇気とは運命に抗う力。例えば、「傷つけたのはあなただ」という思いがカウンセラーに向けられる。シビアでタフな時間。カウンセラーも心が揺さぶられるが、その動揺に持ちこたえ、話を続けるのがカウンセラーの仕事。
 そして、破局を生き延びる。変化は、共に生き延びることで起きる。

心の再発達

 嵐の夜が過ぎ去ると、静かな朝がやってくる。自分や転移を振り返る時間がやってくる。心は新しいことをはじめることができる。
 今まで悲しめなかったことを悲しめるようになり、今まで見えなかった他者の心が見えるようになる。止まっていた時間を前へと進め、ユーザーは以前よりも自由になっている。
 古い物語を終わらせて、古い自分を埋葬する。そのために、破局的大嵐の中を突き進まなくてはならない。「自分に驚く」この驚きこそが冒険の果実。文化的変化。

第5章 カウンセリングとは何だったのか 〜終わりながら考える〜

カウンセリングとはどういうときに終わるのか、そしていかにして終わるのか。
 終わりとは何か。毎日の生活には無限に小さな終わりが潜んでいる。さまざまな終わりがあり、別れがある。これらと直面することで、人生は大きく変わらざるを得なくなる。終わりとは常に新しいものである。

終わりとは何か 毎回のミクロな終わり

・根源的なさみしさ
 カウンセリングの本質的な特徴は、時間ぴったりに終わることにある。延長はしない。カウンセリングの帰り道には、ユーザーとカウンセラーは他人である、という根源的なさみしさがある。
 精神分析は、このさみしさが人間の宿命的な苦しみであり、これをいかに受け入れたり、飲み込んでいくかに心の発達があることを見出した。ユーザーは、それぞれのやり方でその痛みから心を守ろうとする。
・あいだの時間
 一方で、ユーザーは合っていない時間にもつながっていることも体験している。本質的な心の変化は、面接時間ではなく、面接と面接のあいだの時間で起きる。
 「また来週」という次の約束 = 一人ではない。これが心の支えであり、新しいことを始める勇気を生み出す。毎回の終わりは「自立」として体験される。
・孤立と自立
 カウンセリングには接続と切断のリズムがあり、時に孤立を感じるし、時に自立を感じる。

終わりのはじまり 終わりたくなる

A 終わりたくなる
B 終わりを話し合う
C 終わるまで会い続ける  A → B → Cの順番で終わりが発達し、実現していく。
・終わりたくなる
① 解決、例えば「落ち着いたので、終わりたい」
 作戦会議としてのカウンセリングでは、一番多い終わり方。良い終わり方だが、深掘りする余地はあり、冒険としてのカウンセリングにつながる場合もある。
② 事情、例えば「通えなくなるので、終わりたい」
 本当に物理的に通えなくなるのか吟味する余地はある。
③ 不満、例えば「役に立ってないので、終わりたい」
 ユーザーが直接「終わりたい」と不満を言葉にして伝えてくれる時は希望が残っている。カウンセラーはしっかり向き合う必要がある。
④ 不安、例えば「これ以上は不安なので、終わりたい」
 心の苦しい部分を掘り下げることで混乱することの恐怖が表現されている。冒険としてのカウンセリングで出現する。しっかりと向き合い、話し合われなくてはいけない。
⑤ 自然、例えば「なんとなく、終わりたい」
 一山超えた感覚。自立の本質が現れた形。
・転移と現実
 孤立の「終わりたい」を余計にややこしくするのは、そこに「転移」の要素が混じってくることである。カウンセラーは、無能な父親や距離が近すぎる母親の亡霊を引き受けている可能性がある。「終わりたい」について話し合うことで、すでに生じていた転移が明らかになる。

終わりを話し合う

 「なぜ終わりたいのか」詳しく聞く。ユーザーが自分でも意識していない裏の気持ちがあるかもしれない。数回の面接をかけ、時間の経過の中で気持ちがどうなっていくのか確認する。
・変化についての話し合い
 最初に話し合いたいのは「変化」=自立の程度
 解決した課題、残されている課題、を二人で確認し、ユーザーが新天地で取り組んでいく課題を明確にする。
・危機についての話し合い
 カウンセリングの今後に感じている絶望が話し合われる。緊迫したタフな時間。正直な話し合いそのものが心にとって栄養になる。
・終わりを決める
 究極的に重要なのは、時間をかけること。時間をかけて終わりが適切だとお互いに思うことで、終わりは着々と育っていく。

終われなかった終わり

・失敗について
 中断:話し合って二人で決めた終わりではなく、ユーザーが一方的に来なくなる終わり方。
 中断はカウンセラーとしては「失敗」を痛烈に感じる。
 相談に来ること自体に抵抗があるユーザーたちと会っている現場では、日常茶飯事。
・中断の原因と傷つき
 アセスメントを間違え、混沌とした状況になり、絶望を残して終わってしまうケース。
 カウンセラー自身の専門家的な態度が中断に至った理由になっていることも多い。
 失敗から自分の技量を見つめ直すことは、カウンセラーだけでなく、全ての対人援助職が成長するうえで必ず起こることではある。

終わりなき終わり

 作戦会議としてのカウンセリングで設定されることが多い。希望すればいつでも会えるという設定での終わり。昔苦しんだことは「過去」になっている。
 その後に新しく生じた問題については、別のカウンセラーと新しいカウンセリングをはじめる方が良い。

終わり切る終わり

 事前に終わる日を決め、「長い終わり」を設定。最終回は、最低でも2ヶ月先、長ければ半年先。そして、最終回以降は基本的に二度と会わないと決める。
 終わりに含まれる孤立と自立を最大化するため、心に芽生えた終わりの物語を可能な限り発達させるためである。
 「終わりたい」がなんとなく、外からではなく、内側からやってくる。心の深いところに「終わり」が生じる。しがみついていたものから、ふと自由になれるときがある。十分にやり切った感じがする。
 長い終わりとは、別れの苦痛によって、古い葛藤が再燃する。一人になることが、心を揺らす。これをもう一度噛み締めていくのが別れの作業だ。
 他者と別れることで、その他者と紐づいた物語が終わる。それが新しい物語をはじめる力になる。

 〜 カウンセリングとは何か 〜
 それは生活を回復するための科学的営みでもあり、人生のある時期を過去にするための文学的営みでもある。
 カウンセリングとは、近代の根源的なさみしさの中で、人が可能な限り、正直に、素直に、ほんとうの話をすることを試み続ける場所である。

あとがき 〜運命と勇気、そして聞いてもらうこと〜

終わったあとに思い出す

 ふと少しさみしくなる。終わり切る終わりは徹底的であるが、実際には人為的に線を引くようにしては物事や関係性は終わらない。心はあとがきを求める。

 カウンセラーは何もしないのに、人は変化する。ふしぎの国のカウンセリング。
 そのふしぎとは、勇気のことだ。勇気は、ときどき現れる。
 「何も言わずに、話を聞いてもらったのは初めてでした。」これが勇気の正体で、つながりの質感である。ひとつの心の近くにもうひとつの心がある。そのことがふしぎなことに勇気を生み出す。聞いてもらうことが、勇気を生み出す。

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