戦略の要諦

 戦略とは、重大な課題を克服すべく設計された方針と行動の複合体。戦略の実行とは、放っておいたらやらないことをシステムの一部にやらせるための権力を行使すること。どこでどうやって誰と何を戦うのかを決めること。

戦略を立てるスキルの三つの要素

  1. 本当に重要なのはどれで、後回しにしてよいのはどれかを見極める能力。
  2. その重要な問題解決は手持ちのリソースで現実的に解決可能なのかを判断する能力。
  3. リソースを集中して投入する決断を下す能力。

最重要ポイントに全力集中でき、突破口が開ける。
 思わぬ機会に遭遇したり壁に突き当たったりしているうちに、新しい野心が生まれ、古い野心は捨てることになる。それを繰り返しながら、多くの野心の中から次にやることを選別する。

課題に基づく戦略と最重要ポイント

  • 行き過ぎと揺り戻しの前兆となる変化に警戒する。
  • 虚偽や見せかけを突き破り問題の本質に切り込む。
  • 状況を正しい視点で捉えて論議を正しい方向に導く鋭い直感を備える。
  • 技術的優位を持って競争していく。
  • 他社との正面切っての競争を巧みに回避する。
  • 圧倒的な低料金の威力は絶大。
  • 全体を俯瞰してグランドデザインを描く。

最も困難なポイントはどこか、逃してはならない好機はどれかを見極め、具体的行動に移す方法を考える。問題を切り分けて的を絞り、類例を探し、ひたすら考える。
 まず、相反する重要な要素、矛盾する要素、両立しない要素がないかを探し、注目する。問題の解決を困難にしている元凶はどれなのか、を理解する。

ひらめきのメカニズム

 〜ひらめきはどんなふうに生まれるのか〜

  • 新しい見方のできなかった競争相手は取り残されてしまう。
  • 問題の原因をわかっていないときには、解決策がひらめくことは期待できない。
  • 最重要ポイントにフォーカスすることの重要性を理解しているとひらめきは生まれやすい。
  • 誰も疑義を呈していない前提、リソースの非対称性、当事者や関係性の習慣的行動や前例といったものにまず注目する。
  • 「むずかしいと感じたところ」を「とことん考える」こと。

1 ) 粘りぬく

 ひらめきが欲しいときに焦ってはいけない。アイデアが浮かんでも、それに飛びつかず、厳しく検証する。ひとまず保留にして別の道を探すことを怠ってはならない。簡単な答えに飛びつかず、もっといい答えに対する感度を上げることだ。

2 ) 類推する

 ひらめきを生む強力な方法の一つが、類例、前例、模範や教訓を探し、それから類推すること(アナロジー)だ。適切な類例を探すときに幅広い知識や経験が役立つ。

3 ) 視点を変える

 ズームアウトして全体を広角で捉えると、別の面が見えてくる。思わぬ解決が見えてくることがある。

4 ) 暗黙の前提を言語化する

 問題の見え方が違ってくることがある。

5 ) 常に「なぜ」と問う

 既存の枠組みを壊せることがある。

6 ) 無意識の制約に気づく

 最大の障害となるのが、無意識のうちに立てている仮定やそうと気づかずに下して状況判断、根深く身についている世界観、型にはまった古い考え方などだ。

〜ウォーレン・バフェット〜
「ポーカーをやり始めて20分たっても、まだ誰がカモかわからない人は、自分がカモなのだ。」

有能な人材を集めるために

 まずは注目を集める作戦をとる。派手なパーティーを盛んに開く。社名を売り込むためにできることはなんでもやる。

行動に落とし込む

 大事なのは一瞬のタイミングを逃さないこと。
 伝統的な事業を守ることに汲々とするのではなく、チャンスを掴むことにもっと前のめりになるべきだ。
 多くのケースでは、集中的にリソースを投入すれば障害物を乗り越えることが可能。

戦略と成長

 単に売り上げを伸ばすのではなく価値創造による利益を伴う成長の実現。

1 ) ユニークバリューを提供

  その企業ならではの特別な価値を提供する。
  戦略的有効性:ユニークバリューを創出し、その価値を競争相手の侵食や模倣から守る。
  戦略的拡張:革新的ユニークバリューを打ち出し、新しい市場に参入する。

2 ) 不要な活動を排除する

  不採算事業を整理し、成長事業に集中すると、仕事が整理されメリットを一段と活かせる。
  データを改めて分析すると、状況によっては過去の診断が覆されることもある。

3 ) 機敏であれ

  新しいチャンス、逆に懸念すべき兆候に真っ先に反応した企業が優位に立つ。
  顧客対応と新製品の開発・市場投入サイクルの短縮が重要。
  実際にリードすることより、敵にこちらがリードしていると思わせることが重要。

4 ) 合併・買収を活用する

  自社のフォーカスは見失わない。対等合併には絶対に足を踏み入れない。
  自前では開発できないスキルとテクノロジーを持つ企業を買収する。
  市場アクセスを拡大してくれる企業を買収する。

5 ) バケモノを育てない

  バケモノ:古い組織の中枢に巣喰う仕組みやシステムのこと
  庭の雑草がりをして風通しを良くし、フォーカスすべきことにフォーカスする。
  成長するビジネスを育てたいなら組織の官僚化は避けたい。
  バケモノがのさばると、必ず利害の対立や政治的駆け引きの温床になる。
  社内で成長する「苗木」をしっかり守ることが重要。

行動の一貫性

 一貫した方針と行動は互いに支え合う。結果、相乗効果が生まれ、いっそうの競争優位につながる。よくできた一貫性のある方針は特に目を引くような奇を衒ったものではない。一貫性を追求すれば、ひたすら思慮深く賢い方針となる。
 幅広い目標を目指すときの現実的な方策は、目標そのものと達成期限とに優先順位をつけることだ。数値目標には算出根拠を明確にし、最重要ポイントに焦点を合わせる。
 困難な状況を泥沼と捉えるのではなく、解決できそうなことに集中する。

アナロジー

 現在自分が直面する課題とよく似た状況を探し、両者の類似性や共通性を手がかりに現在の課題を理解する手法。
 ただし、無意識なアナロジーは、無意識なバイアスとともに、正確な状況判断を妨げる障害物にもなりうる。人は自分にとって好ましい見方や都合のいい意見ばかり選んで聞き、自己強化する傾向がある。

リフレーミング

 フレーム:ものの見方のこと。どの角度から、どの切り口から見るかということ。
 組織内のものの見方が硬直的になっていると気づいたら、問題の別の側面や因果関係に光を当てるようなフレームを提案し、具体的な行動計画を立てる。
 興味深いのは、財務状態や収益性を同業他社や業界平均や他国と比較するとき。予想外の知見やヒントを得ることができる。
 既存のデータを新たな視点から見ることで、予想外の問題点や意外なチャンスを発見できることがある。
 分類の仕方を変えてみるだけで、新たなヒントを得られることが少なくない。

産業分析

 マイケル・ポーターの「5フォース」:個別企業のパフォーマンスが対象ではない。

  • 競合他社の脅威
  • 新規参入者の脅威
  • 売り手の交渉力
  • 買い手の競争力
  • 代替品の脅威
    ある産業に属す企業の利益率に大きなばらつきがあるなら、5フォース分析に適さない。

分析ツールの活用は慎重に

エージェンシー問題

 依頼人と代理人の利害は常に一致するとは限らない。

破壊的イノベーション理論

 競争相手が新技術を市場に投入したときに、それまで業界トップだった企業がその地位から滑り落ちてしまう現象。
 破壊的技術は低価格で、少なくとも当初は性能も劣る製品の形で出現することが多い。
 ただし、iPhoneのように価格も高く性能も高い製品の場合もある。
 どんな事業も不死身というわけにはいかないのである。

ベルトラン競争

  値下げに対して市場が即座に決定的な反応を示す価格競争。勝つ唯一の方法は市場の独占。

強みを探す

 戦略は強みを軸に組み立てるのが王道である。優れた戦略家はあらゆる非対称性に目を光らせ、どの非対称性が一方の優位になりうるかを見抜く。

どこに強みや優位性を探すか?

  1. 情報
  2. ノウハウ
  3. 地位
  4. 効率
  5. 組織のマネジメント

 優位性の一つに新しい需要と古い知識、既存事業と新技術を結びつける手腕が挙げられる。しかし、新しい組み合わせは、最初はイノベーションとみなされるが、そのうち当たり前になる。逆に、切り離すことが競争優位になることもある。

規模

 効率改善や市場支配の強化を実現する最も手っ取り早い方法は、規模の拡大である。ただし、規模が大きくなるほど初期投資はかさむし、差別化を求める顧客の要望には応えにくくなる。規模が大きくなるほど中間管理職が何階層も必要になり、調整し統合する仕組みが必要になる。

経験=実践学習効果

 経験曲線:累積生産量が増加するに従って単位コストが減少する現象
 経験効果によって、他社に先んじた企業はその地位を維持できる。

ネットワーク効果

 うまく活用すれば、新しく売り出した製品やサービスを記録的な短期間で人々に知ってもらい、試してもらうことができる。

イノベーション

 重要な発明の歴史は、通説と異なり、斬新的な改良の積み重ねである。そうした改良の多くは、往々にして同じ時代に生きた複数の発明家によって実現される。多くの発明は、既存のインフラに依存している。戦略家は、一世紀以上続くような長い波と、目先の短い波の両方を的確に評価しなくてはならない。競争にならないうちに急成長を遂げ独走する。これが成功するイノベーションの典型。しかし、巨大企業は若い成長企業を取り込むか出し抜いて事業を拡大しようとする。

長い波

 遠い将来はど技術の予測はむずかしい。予測可能と言えるのはせいぜい5〜7年先だろう。期間が長く範囲の広い将来予測は、大企業・政府・研究所の領域になる。

短い波

 何かを作るコストが下がって商業化・実用化が可能になったときに発生することが多い。初期の段階では、新しもの好きな消費者を呼び込む戦略を立てると良い。
 新しいアイデアを思いつくことはできても、あなたの頭にそれが閃いた時には誰か他の人の頭にも閃いている。

組織の機能不全

 最重要ポイント:経営陣の組織設計・運用 ⇨ 組織の問題はリーダーの資質が問題
 素直な現状分析がいつの間にか差し障りのない形に修正されている。出世第一主義がはびこっている。社内の不信感が根強く、万事につけ確認・再確認でスムーズにことが運ばない。

組織改革

 良き戦略家は、外向きの目標設定に注ぐのと同じ熱意をもって、社内の問題に取り組まなければならない。

  1. 経営陣は口先だけではなく改革に本気を出さなければならない。
  2. 本格的な改革を実行する前に、複雑な組織を整理しておかなければならない。
  3. 根気よく働きかけ、話し続け、社員のものの見方にも影響を与えなければならない。

目標設定

 良い目標はすぐれた戦略設定の結果として導き出される。経営幹部がどこに時間とエネルギーを集中させるか、どこに企業のリソースを配分させるかを決定する。
 最大の目標は市場で勝利を収めることだ。企業価値は結果としてついてくる。

〜マイク・タイソン〜
「誰だってゲームプランはあるさ。顔面に一発喰らうまではね。」

意思決定に影響を与えるバイアス

 バイアスにとらわれると、課題の選択を誤ったり診断をおこたることになりかねない。

1 ) 楽観バイアス

 プラス面を過大評価し、マイナス面を過小評価するという、都合の良い解釈をする傾向。

2 ) 確証バイアス

 もとから持っている意見や信念を支持する情報や材料に注意が向き、そうでない情報を軽視する傾向。

3 ) 経験バイアス

 自分自身の経験を過大に重んじる傾向。競争相手の強みや行動を無視したりしやすい。

著者

リチャード・P・ルメルト
 戦略論と経営理論の世界的権威。エコノミスト誌は、「マネジメント・コンセプトと企業プラクティスに対して最も影響力ある25人」の1人に著者を選んだ。マッキンゼー・クォータリー誌は「戦略の戦略家」、「戦略の大家」と命名。研究者としてのキャリアを通じて、つねに戦略の最先端を切り拓き、戦略の系統的研究を推し進め、コアスキルに注力する企業こそが最善の結果を残すという考え方を提示し、卓越したパフォーマンスを出す企業は業界に左右されるのではなく個々の企業の能力によることを説明。リソース・ベースト・ビューの提唱者の1人であり、市場支配力をベースとしてきたそれまでの戦略論を転換させた。ハーバード・ビジネススクールにて博士号取得。現在はUCLAアンダーソン・スクール・オブ・マネジメント名誉教授。幅広い組織にコンサルティングを行っている。

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